第3章:てんかん発作時の注意点と避けるべき行動
てんかん発作は、飼い主にとって非常に衝撃的な出来事ですが、間違った対処は愛犬にさらなる危険をもたらす可能性があります。ここでは、特に注意すべき点と避けるべき行動について解説します。
3.1 口の中に指を入れる行為は絶対に行わない
発作中の犬は、意識が正常ではなく、無意識のうちに非常に強く噛みつくことがあります。飼い主が口の中に指を入れると、指を切断されるなど大怪我をする危険性が極めて高いです。また、犬が舌を噛み切ることを心配する飼い主もいますが、犬の舌は筋肉でできており、通常は自分で噛み切ることはありません。むしろ、口の中に異物を入れることで、気道閉塞のリスクや、愛犬の口を傷つけるリスクが生じます。口の周りに泡を吹いていても、ほとんどの場合は自力で呼吸していますので、無理に口を開けようとせず、冷静に観察してください。
3.2 大声を出したり、揺さぶったりしない
発作中の犬は、外部の刺激に過敏に反応することがあります。大声で呼びかけたり、体を揺さぶったりすると、犬がさらに興奮し、発作が長引いたり、悪化したりする可能性があります。また、パニックに陥った飼い主の行動が、愛犬に不必要なストレスを与えることにも繋がります。あくまで静かに見守り、安全を確保することに徹しましょう。
3.3 長時間の発作(重積発作)や群発発作の危険性を認識する
てんかん発作が5分以上継続する場合を「重積発作」、24時間以内に複数回の発作が起こる場合を「群発発作」と呼びます。これらは命に関わる緊急事態であり、脳に深刻なダメージを与える可能性があります。
重積発作:脳が長時間にわたって過剰な活動状態に置かれるため、脳の酸素欠乏や体温上昇、代謝異常を引き起こし、不可逆的な脳損傷や死に至る可能性があります。発作が5分を超えて続く場合は、速やかに動物病院に連絡し、指示を仰ぎましょう。病院では、発作を止めるための緊急薬剤(ジアゼパムなどの抗けいれん薬)が投与されます。
群発発作:一度の発作は短時間でも、それが立て続けに起こることで、体力を著しく消耗し、重積発作と同様のリスクを伴います。群発発作が確認された場合も、すぐに獣医師に連絡してください。
これらの状況では、自宅での対処は限界があり、専門的な医療介入が不可欠です。事前に獣医師と緊急時の対応について話し合っておくことが重要です。
3.4 自己判断での投薬中止や用量変更は危険
抗てんかん薬は、脳内の電気活動を抑制し、発作の発生を抑えるために処方されます。これらの薬は、血液中の濃度を一定に保つことで効果を発揮するため、毎日決まった時間に、指示された量を正確に投与することが非常に重要です。
発作が見られなくなったからといって、飼い主の自己判断で薬の投与を中止したり、量を減らしたりすることは絶対に避けてください。薬物療法を突然中止すると、「離脱発作」と呼ばれる、これまでよりも重度な発作や重積発作を引き起こすリスクが非常に高まります。
薬の調整は、必ず獣医師の指導の下で行われるべきです。定期的な血液検査で薬物濃度や肝臓・腎臓への影響をモニタリングしながら、慎重に用量を調整していきます。
3.5 発作と間違えやすい他の症状
てんかん発作と似た症状を示す他の疾患もあります。例えば、心臓疾患による失神、低血糖、脳腫瘍、肝臓疾患による脳症、前庭疾患(平衡感覚の異常)などが挙げられます。
獣医師は、これらの鑑別診断を行うために様々な検査を実施します。飼い主は、発作の具体的な様子や、それ以外の愛犬の体調変化(意識レベル、食欲、排泄、歩行など)についても詳細に伝え、正確な診断に協力することが大切です。自己判断でてんかんだと決めつけず、必ず獣医師の診断を仰ぎましょう。